四阿山
10月15日、土曜日。久しぶりに、予定のない休日と晴天が重なった。
朝6時に起きてカーテンを開けると、雲一つない空。気温もそれほど寒くなさそうだ。山登りかバイクツーリングか迷ったが、仕事でじっと座り続ける生活にストレスがたまっていたので、とりあえず思い切り歩くことにした。
ばたばたと準備して、クルマで出発。菅平牧場に向かう。
菅平牧場からは、根子岳(ねこだけ)と四阿山(あずまやさん)の登山口にアクセスできる。さて、どちらに登るか。と、クルマを運転しながら考えた。根子岳は「花の百名山」として名高いらしいが、今は当然なにも咲いていない。ただ、2時間で登れる。四阿山は本家「百名山」だが、コースタイムは3時間。今の自分の体力では、ちょっときついかもしれない。
登山口に着いたのは、9時過ぎ。時間的には、四阿山でも行けそうだ。登山者の様子をうかがってみると、普通の親子連れも四阿山の登山口に向かっている。よし、思い切って行ってみよう。9時半、登り始め。
白樺林の中を歩く。紅葉は、まだまだだなぁ。途中、小さな沢を渡った。丸木橋が壊れていて、徒渉しなければならないのだが、飛び石の1つが2cmほど水没していた。ヌルッと滑りそうで、足を踏み入れるのに勇気がいった(実際はざらっとしていた)。
白樺の林を抜けると、本格的な登りが始まった。予想してたとおり、キツい。最初のピークである小四阿(こあずま)まで、1時間ちょいで300mの標高差だった。すでに半分以上のエネルギーを使った感じがしたが、頂上まではあと400m登らなきゃならない。次の中四阿(なかあずま)のピークで引き返そうかと、真剣に考え始めた。
しかし、中四阿まで案外早く着いて、最後まで行けそうな気がしてきた。それに、苦労して登ってきた割には、中四阿は達成感のある雰囲気の場所ではなかった。眺めは良かったけど。
そのままの勢いで最後のピークに向けて歩き始めたが、ここからまた厳しい登り。勢いだけで黙々と歩き続けた。
12時過ぎ、標高2354mの山頂に到着。標高差769m、移動距離はそれほどなかったものの、ここ数年で一番キツい山登りだった。
山頂にはたくさんの人がいて、お弁当を食べていた。自分も岩に腰を下ろして、浅間山、八ヶ岳を遠くに眺めながらおにぎりを食べた(富士山は見えなかった)。
浅間山の火口から吹き出す噴煙がよく見えて、面白かった。
13時過ぎ、下山開始。尾根伝いに根子岳の山頂を目指すこともできたが、一度下ってから、かなりの高さを登り返す必要があったので、今回はやめておいた。もう脚が持たない。
下山もキツかった。下りているのに息が上がり、脚が動かなくなってくる。足下がおぼつかなくなって、何度も休憩を入れてしまった。
下りの途中で、奇妙な体験をした。
中四阿のピークを過ぎたところで、いったん小休止した。ここのピークは高さ10mほどの尖った岩山になっているが、険しくて危険なので、登山道は岩山を迂回した巻き道になっている。この岩山から20mくらい離れた場所でザックを置いて、根子岳の山頂を写真に撮った(下の写真)。
四阿山から根子岳の山頂に向かう場合、この右側の尾根を登ることになる。ここから見ると、けっこうな距離と標高差がありそうだった。欲を出してあっちに行かなくてよかった、と思った。
そのとき、岩山のピークの方から、女の人の声が聞こえた。「またあんなに登るなんて、ねぇ?」。自分と同じことを考えている人がいるんだなと思って振り向くと、誰もいなかった。
しばらくすると、岩山の脇の登山道から1人の女性登山者が現れた。その人の後には、誰も来なかった。自分はすぐにその場を立ち去った。
落ち着かない感じがした。あの女性はずっと一人で行動していたし、あんなに大きな独り言をしゃべるような感じにも見えなかった。いや、あれは明らかに相手がいることを前提とした話し方だった。
山で幻聴を聞く話はよく聞くが、あれがそうなのだろうか…
15時15分、下山。菅平牧場のソフトクリームを食べた。日差しが強くて、暑いくらいだった。
烏帽子岳
遅い夏休みの最後は、新しいバイクでキャンプツーリングの予定だった。しかし、天気予報では晴れそうな(雨が降らなさそうな)日が9/25の1日しかなかった。雨の中のキャンプにはうんざりしていたので、この日は久しぶりの山登りにあてることにした。今まで右膝の状態を考慮して山登りを控えていたのだけど、もう問題ないだろう。ガイドブックを見ながら、登る山を選ぶ。
久しぶりなので短時間で登頂できること、近場にあること、ソロ登山なので登山者が多いこと(いざというときに発見してもらえる)を条件に検討した結果、東御市の烏帽子岳に登ることにした。
しかし、急に思いついたので何も準備できず、地図も用意できなかった。まぁファミリーハイキング向けの山だし大丈夫だろうと、朝立ち寄ったコンビニでガイドブックのページをコピーして持って行った。
予報通り、天気は快晴。この時期としては気温も高く、風もない。ウインドブレーカーもいらないくらいだった。
久しぶりの青空の下、クルマを走らせて登山口まで一気に登る。窓全開で爽快な気分。でもバイクとすれ違うと、バイクのが良かったなと思ってしまう。
登山口の地図でコースを確認。今回は湯ノ丸山をスルーして烏帽子岳に登る、ぬるいコースである。
登山道は、キャンプ場へと続く林道から始まる。この林道、場所によっては地面が荒れているので、大型バイクでツーリングに来る人は大変かもしれない。
キャンプ場は湿原と森に囲まれた草原になっており、少し狭いが、なかなか素敵なサイトだった。ひっきりなしにハイカーが通るので、熊鈴がうるさいかもしれないが…
キャンプ場を過ぎると、登山道に。
ゆるやかな上りが続く。
30分くらい歩くと尾根に出る。
白い花には、夏が終わっても生き残っているハチやアブたちが群がっていた。
だんだん眺めが良くなってくる。
山頂が見えてきた。
やったぜ登頂!と思ってザックを下ろしたら、違った。もっと先に山頂が見えた。ここは「小烏帽子岳」というピークだった。
岩場登りは楽しい。一歩間違えると大変なことになるけど(写っている人は知らない人です)。
今度こそ登頂。地元のおっちゃんらで賑わっていた。
写真に写っている斜面はなだらかだが、この反対側は急に切れ落ちていて、ものすごい崖になっている。眺めに見とれてふらふらしていると、落ちかねない。けっこう危険だ。
崖から少し離れた岩陰に座っておにぎりを食べていると、後からやってきた家族連れが崖の上でレジャーシートを広げ始めたので、ハラハラした。その女の子が座っている30cm後ろは崖なんだけど……。
ちょうどお昼になった時刻で、下山した。
帰り、途中の分岐点で登りとは違う道を選んでみた。迂回して湿原を通り、キャンプ場に至るコース。歩き始めるとすぐに藪が深くなり、道が曖昧になってきた。こちらはあまり人が通らないらしい。鬱蒼とした森に入った。
道は続いていたものの、行けば行くほど笹藪が深くなり、道が見えなくなってきた。ガイドブックにも、登山口の案内図にも載っている道なのに、この状態とは、どれだけ人がこないのか。だんだん怖くなってきたので、引き返した。
湿原へはキャンプ場の側から簡単に入ることができた。あの道をわざわざ通る人がいないわけだ。
この森が色づいてきたら、キレイなんだろうな。
14時前、登山口に到着。
膝が痛くなることも(それほど)なく、無事に登り、下りることができた。雪が降る前に、また何度か登りたいな。
1周年
右前十字靱帯再建手術から、ちょうど1年が経った。節目の診察を受けるためだけに、台風の大雨の中をクルマでひた走り、西宮に戻った。
診察の前に、理学療法士の先生による筋力測定。よくサッカー選手のリハビリ映像で出てくるBiodexというマシンを使って、右脚の筋力が回復しているかどうか、左右の筋力のバランスはどうかを調べる。
その前に、先生が走る様子を見たいというので廊下を走る。「軽やかで非常によろしい」との評価。
5分ほどバイクを漕いでウォーミングアップしてから、Biodexに体を固定する。ちょっとした拷問具のような大げさな機械だが、測定方法は簡単。椅子に体を固定し、片脚を可動アームに固定して、一定時間全力で脚を曲げ伸ばしする。
測定は片脚ごとに2回行い、1回目は曲げ伸ばしの力を測定し、2回目は持久力を測定する。1回十秒ほどで終わるが、全力を出さなければならないのでかなり疲れた。
結果……屈曲力の筋力はほぼ左右均等だが、伸展力は左右で20%の差があった。また、両脚とも屈曲力が伸展力の半分を切っている。靱帯を守るためには、伸展力の50%以上の屈曲力が必要らしい。
つまり、今後は右脚の伸展力(伸ばす力)を高めつつ、両脚の屈曲力(曲げる力)を高めなければならない。
ちなみに、運動能力を表す「仕事量体重比」はランク11、女性アスリートレベルだった。体重が軽すぎるおかげ。ただ、疲労度の値はいまいちだった。スタミナがない。
先生からは、姿勢の悪さが脚の筋力バランスの悪さにつながっていると指摘された。
・座るときの正しい姿勢は、椅子に深く座り、軽く股を開く。股の間に壁をイメージして、そこに胸と顔面を押し当てるような感じ。
・その姿勢で「空気椅子」トレーニングを行う。左右に重心を揺らしながら、腿裏に負荷をかける。
・猫背を解消するためのストレッチ。壁の角に背中を預け、足を開く。あごを引き、背中と後頭部を壁の角に押し当てる。そのまま両腕を開き、手のひらが前を向くように腕をねじって、左右の壁に押しつける。
・腿裏(ハムストリングス)のストレッチ。立ったまま行う。右脚を伸ばす場合は、右脚の前に左脚をクロスさせて、足を揃える。左膝に両手を添えて、背を伸ばしておしりを突き出すようにして腿裏を伸ばす(痛気持ちいい程度に)。次に、背中を丸めて右手を右足のつま先に向かってのばす。それぞれ20秒ずつ。左脚も同様に。最後に両脚を揃えて膝の裏で両手を組み、腿裏を伸ばす。
・仕事環境も改善する(VDT症候群対策)。デスクに「肘置き」を取り付けて、正しい姿勢で作業できるようにする。肘置きの高さは、自然に肘を下げた位置から2cm上の位置にする。
短時間で色々なことを教えてくれた。頼りになる先生だ。
次に、スポーツ整形外科の診察。レントゲン写真では骨の損傷など見られず、きわめて良い状態だった。右膝のぐらつきも皆無。左膝よりもしっかりしているくらいだった。先生曰く「自分の作品として最高の仕上がりやと思うよ」。
しかし、現実として痛みがある。走った後、階段を上った後、右膝に違和感や痛みが生じる。
いろいろと話し合ったが、結局、右脚の筋力をもっと回復させないとダメという結論になった。「40代なんだから、若い子みたいにすぐには治らないよ。こんなもんだよ」と、言われてしまった。1年後の診察を予約して、終了。
翌日は、長野にとんぼ返り。そろそろ、ジムに通って本格的な筋トレしないといかんかな。
雨中キャンプ
秋のツーリングシーズンの前に、この連休にテストを兼ねてキャンプツーリングに出かける予定だった。しかし、2日前の時点で全日程が雨になる予報が出た時点で、やる気が80%なくなった。一緒に行く友人たち(彼らはオートキャンプ)がいたので、キャンプ自体は決行することに。ただし、2連泊を1泊に短縮し、バイクをあきらめてクルマで行くことにした。
キャンプ場は、上伊那の四徳温泉キャンプ場。朝、出発した時点でもう雨だった。移動中、お昼かけて警報レベルの大雨になった。現地に到着したときには多少弱まっていたが、普通にざあざあ降っていた。
テント設営後に雨に降られたり、濡れながら撤収したりしたことはあったが、本降りの雨の中でテントを張ったのは初めてだった。通常の手順で張るとインナーテントがびしょ濡れになってしまうので、まずミニタープを張ってから、その下でテントを設営した。いつもの2倍くらい面倒くさく、2倍の時間がかかり、なおかつずぶ濡れになった(もちろんカッパは着ていたが)。
シングルウォールテントや、フライとインナーが一体になったテントなら、もっと楽なんだろうな。欲しい…
夜になっても雨は止まなかった。でも、友達が大きなスクリーンタープを持ってきてくれたから、中で食卓を囲んで食事したり、談笑したりできた。しかし、楽しみにしていた焚き火は断念。
一人キャンプで雨に降られたら、テントに閉じこもって簡単な食事を作り、少しだけ本を読み、さっさと寝るというのがいつものパターン。でも、それも楽しい。根本的に、自分は1人遊びが好きらしい。
友達にお休みを告げて自分のテントに入った後、どうしても我慢できず、寝袋の中でマンガを読んだ。ぽつぽつとタープを叩く雨音を聞きながら。この孤独感がよい。ただ、明かりが暗いので目が疲れてしまう。次回はKindleを持ってくるか。
翌朝は、小雨。設営時と逆の手順でテントを畳む。あらゆるものが水に濡れて、泥にまみれているが、クルマだと適当にまとめて乗っけておけばいいので楽だ。バイクの場合は、びしょ濡れのテントのパッキングにいつも苦労する。
当初は「千畳敷カール」に行く予定だったが、現地悪天候のため断念。代わりに、友達がネットで見つけた「赤そばの里」を見に行くことに。
民家が点在する田舎道の突き当たりに、森があった。泥だらけの駐車場にクルマを停めて、薄暗い山道を5分ほど歩くと、ぱっと視界が広がって一面の蕎麦畑が姿を現した。タイミングよく雨が上がり、一瞬、日が差した。
白い花をつける普通の蕎麦とは違い、赤い花を付ける特別な品種が栽培されている。まだ咲き始めの時期なので、ちょっと花がまばらな感じだった。
間近で見ると、意外とかわいい花だった。蕎麦の花って、こんな形をしていたのかー。
一面の花に誘われて、ハナアブがたくさん集まっていた。
それにしても、初めて訪れた上伊那郡、とても良いところだった。ここに住んでもいいかな。
東…京…
時間差日記。
9月10日、会社の移転を手伝うため東京へ。新幹線を降りたとたん、むわっとくる湿気。カラリとした信州の暑さとはまるで違い、戸惑った。すぐに汗だくに。人の多さや街の騒々しさにもうんざりした。あー、早く帰りたい……オレ、信州人になりかけているな。
会社から遠いホテルしか取れなかったので、地下鉄とJRを何度も乗り継いだ。そのたびに、長い階段を上り下り。クルマ移動が当たり前の田舎よりも、東京の人の方がよく歩くので健康的だという話を聞いたことがあるが、まったくその通りだ。翌日も美術館に行ったり、買い物に行ったりで、乗り継ぎエクササイズを存分に体感。翌日、脚が筋肉痛になった。
東京都美術館で開催されていた写真展「トーマス・ルフ展」。最初、コンセプチュアルな作品が多くて難しいなと思っていたが、後半にかけて感覚的・挑戦的な作品が増えてきて、とても惹き付けられた。写真を撮らなくても写真家であり、素晴らしい作品を生み出せるという驚き。
ミラーレスカメラを手放して1年近く経ち、そろそろ良いカメラを手に入れようと思っていた矢先に、この展覧会に出会えたのはよいタイミングだった。何を目的に、写真を撮るのか。そのために必要なカメラは何か。そもそも必要なのか。
その後、新宿西口の中古カメラ店に行ってみたが、ピンとくるカメラは見つからなかった。写欲を刺激してくれるカメラがない。疲れて電気街をうろつくうちに、予定外のモノを買ってしまった。まぁ、前から目を付けていた品ではあったが……
複雑な見た目に反して、びっくりするくらいシンプルな腕時計。
『君の名は。』(ネタバレあり)
8月31日、台風一過の青空。夏の終わりの太陽が輝く中、自分は朝から部屋にこもり、PCを前にして仕事に追われていた。日が傾いて、涼しい風が吹き始めた頃、いいかげん疲れてきて、一休みしてTwitterを開いた。すると、夏休み最後の日というお題で、色々な人がツイートしていた。
タイムラインを追ううちに、このツイートが目に入った。SF作家の小川一水さんが『君の名は。』を見終えた後のツイート。
声優さんたちもよかった。てっしーが渋かったね。あー今日見てよかった! 今年はいい夏だった!
— 小川一水 (@ogawaissui) August 31, 2016
「今年はいい夏だった!」あー、なんて良い感想だろう!やっぱり『君の名は。』観たいな。今日行くか?行けるか?次回18:35から、間に合うか?いやもう、イチかバチか行ってみよう!
駅前で渋滞にはまったものの、裏道を飛ばして、無事10分前に映画館に到着。平日だし席は余裕だろうと思っていたが、存外、混んでいた。中学・高校生らしき若者が多い。いいね、この夏休み感(しかし、後でこの地域の夏休みがとっくに終わっていることを知った)。隣の席は制服の高校生カップルだった。
田舎の女の子と都会の男の子の心が入れ替わってしまうラブストーリーというと、ちょっと、ありがちなラブコメ話に思えてしまう。と、油断していたら、手の込んだ仕掛けが幾重にも詰まっていた。意外な展開に呆然としたり、思わず手に汗握ったり。出会えそうで出会えない二人の行く末を真剣に追っていくと、最後に、あのラストシーンになるのだった。
あくまでも直球のラブストーリーを追求しつつ、誰もが楽しめるエンターテインメント作品に仕上がっている。このスタイルは、宮崎駿とも、細田守とも違う。説教臭さが全然ないのが素晴らしい。
あのラストシーン、どこか既視感があるなと考えていたら、ふと思い出した。村上春樹の短編小説『四月のある晴れた朝に100%の女の子に出会うことについて』。あの小説では、結局、少年と少女はすれ違ったまま永久に出会えない。それを「出会える」ようにする、「あの一言」を言えるようにするための大冒険を描いたのが、この映画なのだろう。
劇場を出るとき、ふとエントランスの上に貼られたポスターを見上げて、あっと声を出してしまった。これは、やられたね。