福島ツーリング(1)

東北は馴染みのない土地だ。これまで一度も足を踏み入れたことがない。

自分にとっての東北のイメージは、つげ義春の温泉漫画から来ている。秋の訪れとともに木々が一斉に紅葉し、冷たい清流でイワナが跳ね、朽ちかけた湯治場で老人たちが体を癒しているような……

そんな神秘的なイメージが頭に残っていて、以前から秋の東北に行ってみたいと考えていた。秋の三連休、観光シーズンのピークだろうけど、思い切って行ってみることにした。

気楽なキャンプツーリングにすることにして、キャンプ場を中心に予定を立てた。東北道は走ったことがないので距離感がつかめなかったが、セローで無理なく1日で到達できるのは福島県内までと判断。檜原湖(ひばらこ)を目的地にした。

10月12日の朝4時に起床。前日までにあらかた荷物は準備していたのだけど、バイクに荷物を積んだり、朝飯を食べたりしていたら6時になってしまった。なんでこう始動が遅いのか……

ややこしい首都高をナビに従って抜け、東北道へ。いきなり事故渋滞でうんざりしたが、浦和から先はスムーズに走ることができた。

日が上るにつれて、ものすごく暑くなってきた。温度計では28℃、直射日光が当たると汗が流れてくる。ジャケットのベンチレーションを全開にして、首元もはだけて走った。

那須高原を過ぎると、さすがに涼しくなってきた。高速道路の周囲も緑が深い。ジャケットのベンチレーションを閉じ、首元もきっちり閉めた。

福島県の手前で、ものすごい横風が吹き始めた。ヘルメットがぐいんと持って行かれそうになるのを耐えていたら、首を痛めてしまった。最終日までずっと痛かった。

安積PAで昼ご飯。情報掲示板で、目的地周辺に雨が降っているのを知る。進行方向の空に暗い雲がかかっていて気になっていたのだが。嫌だな。

ガソリンが尽きたので、PAのスタンドで給油。東京から来たバイクは軒並み給油のタイミングらしく、スタンドにバイクの行列ができた。そのほとんどがハーレー。このツーリングの間、たくさんのバイクを見かけたが、ハーレー率は50%を超えていた。250ccのトレイルバイクなど、数えるほどしか見なかった。

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郡山JCTで磐越自動車道に入る。ここまで来ると景色が違う。空気感が違う。硬く澄んだ空気。

西へ行くにつれ、上空の雲が厚くなり、やがてポツポツと降り始めた。猪苗代磐梯高原で高速を下りた後、あきらめてカッパを着用。磐梯山の裾野を走る頃には、本格的に降り始めた。

走っていると、ヘルメットのシールドがくもり始めた。気温が下がってきたのだ。道路脇の温度表示をちらりと見たら、16℃だった。朝から10℃も下がったのか!だんだん寒さが身に染みてきた。

檜原湖は霧に包まれていた。視程は10mくらいしかない。車が少ないので危険はなかったけど、真っ白で、目的のキャンプ場が見つからない。あきらめて、湖の対岸のキャンプ場に行ってみることにした。

湖を周回する道路を進むと、ふっと霧が晴れ、代わりに雨が降ってきた。風も強い。横殴りの雨と下がり続ける気温に負けて、キャンプは諦めることにした。

「こたかもり第1オートキャンプ場」で小さなバンガローを借り(雨だからか割引してくれた)、とりあえず仮眠して雨が止むのを待つ。

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日が落ちた頃になってようやく小降りになったので、食料の買い出しに。真っ暗な湖畔の道路を10分ほど走った場所にコンビニがあった。朝飯のパンを品定めしていたら、ライダーとおぼしきおじさんがアルミ容器入りの鍋焼きうどんを買っているのを見て、今夜はこれだ!と思った。残り1個をすぐさま買い物かごに。直火にかけるだけで簡単に温かい食事ができるのだから、いまの状況には最適だろう。

レジには若いバイトの女の子が立っていた。茶髪、化粧ばっちり、つけまつげダブル重ね。おー、地元ギャルやなと思いながら会計したら、しゃべる言葉がものすごく訛っていて、なんかなごんだ。東北弁か会津弁かわからないけど、女の子がしゃべると可愛く感じる。

コンビニからキャンプ場に戻り、今度は風呂に行く。コンビニに行く途中に、温泉の看板を見つけて、気になっていたのだ。

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目立たない看板を頼りに真っ暗な道を進むと、忽然と温泉施設が現れた。宿泊設備はなく、露天の温泉のみという変わった施設だった。古びた木造の小屋が管理棟になっていて、800円を払い、林の中の露天風呂に向かう。男女別に2つの露天があるようだ。小さな木造の脱衣所で服を脱ぎ、また外に出て温泉に入る。洗い場は吹きさらしなので寒い。冬は無理だろう。露天は林の木々に囲まれ、野趣があっていい感じだった。昼間に来たら良かったかもしれない。

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バンガローで鍋焼きうどんを食す。歯を磨こうと外に出ると、空が晴れて月が出ていた。雲間からのぞく半月と、檜原湖の湖面に映る月光が、何とも言えず良かった。東京の真冬のような冷たい風が吹きすさんでいて、風邪を引きそうだったが、しばらく湖畔で夜空を眺めていた。