福島ツーリング(3)
10月13日、昼。晴天。
まずは、磐梯吾妻レークラインに入る。いきなり、山に向かってまっすぐ走る直線道路。テンションが上がる。山がもっと紅葉していたら最高だろうなぁ。
道沿いのビュースポットで、眼下に点在する湖を眺める。雄大な景色。
この道は標高差が少なく、ゆるやかなカーブが多いので、のんびり流すのに向いている。好きな感じ。10台くらいのマスツーリングの集団と何度もすれ違った。
朝が早かったので、腹が減ってきた。途中、レストハウスがあったので立ち寄ってみたが、駐車場待ちの車の列がすごくて、うんざりして引き返した。
どこかに店がないかなと思いつつ走っていると、道路の脇に「峠の茶屋」っぽい小屋を発見。駐車場にはほどよく車が並び、バイクもたくさん駐まっている。よし、ここにしよう。
店先には山で採れた茸や芋や山菜が並び、奥が食堂になっていた。テーブルには8人ほどのライダー集団が座っていたが、皆、ラーメンを食べていた。どうやら「辛口味噌ラーメン」のようだ。
元気のいいおばちゃんが注文を取りに来たので、訊いてみた。
「ここは味噌ラーメンが名物なんですか?」
「いんや、何でも好きなもん注文したらええ!(東北弁)」
まぁ、美味しそうだし、温まりそうだし、辛口味噌ラーメンを注文してみた。麺はインスタント風ながら、ぴりっとした味噌味スープがなかなかの味。自家製シナチクも美味しかった。
気になったのが、この飴。万病に効くやん!
店を出てしばらく走ると、磐梯吾妻スカイラインに入った。つづら折りの狭い道をどんどん駆け上がり、標高を上げていく。
遮るものがないので眺めが良く、ついつい脇見運転してしまう。前を走っていたF650GSの人は、左手でカメラを持って動画を撮っていた。最近、車載動画に興味があって色々調べていたのだけど、こういう景色なら撮りがいがあるだろうな。
気持ちよく走っていると、カーブの途中でいきなり車が止まっていた。何かと思えば、渋滞。この先の浄土平の駐車場まで、まだ8kmもあるのだが。狭い対面通行の道路なので、すり抜けもできない。厳しいなこれは。
安全運転と旅の効率性のはざまで悩みつつ、先に進む……。
やがて前方に、異様な灰色の山が見えてきた。浄土平だ。
大混雑の駐車場にバイクを停める。目の前の禿げ山にたくさんの人が登っているので、自分もとりあえず登ってみることにした。
上に行くにつれて、風が強くなってきた。頂上に着いて、びっくり。巨大な火口がそこに。
火口のふちをぐるりと一周できるようだったが、すさまじい風に躊躇した。台風並みの強風がごうごう吹いていて、体ごと持って行かれそうだった。道には柵も手すりもない。ちょっと足を踏み外したら数十メートル下まで転げ落ちること間違いない。
眺望は素晴らしかったろうけど、あきらめて山を下りた。もう15時半だし、のんびりもしていられない。さっさとキャンプ場に向かうことにした。
来た道をたどって、また檜原湖へ。山は日暮れが早い。日が傾くにつれ、あっという間に暗くなってきた。焦る。
檜原湖に着いたのは17時頃、もう薄暗くなっていた。昨日、濃霧で見つけられなかったキャンプ場を探すも、また迷う。家で調べたときに大体の見当を付けておいたのだけど、見つからない。もう閉鎖したのだろうか。
しばらくうろうろした後、思い切って先に進んでみたら、あっさり見つかった。思っていたよりも、ちょっとだけ奥だった。
管理小屋を訪ねると、優しそうなおばあさんと陽気なじいさんが迎えてくれた。ライダーには慣れているようだ。バイク1名で、一泊1000円。
湖畔の広々とした岸辺がテントサイトだったが、水場やトイレに近いサイトは先客でほぼ埋まっていた。オートキャンプのテントが3〜4
張り、ライダーが2張り。もう暗いし、選択の余地もないので、おばあさんに勧めてもらった木の下のスペースに張ることにした。
暗くなる前に、大急ぎでテントを張る。荷物を放り込んだ後、今度は風呂へ。近くに公営の温泉施設があるとのことだったが、18時半までに行く必要があった。
日が暮れて真っ暗になった山道を走る。途中、道の駅で翌朝の食事を買い出し。美味しそうなパンを見つけたものの、1斤単位でしか売ってなかった。さすがに1斤は無理なので、ラーメンを買った。朝ラーメンに挑戦しよう。
そこから15分ほど走ると、闇の中からガラス張りの巨大な建物が忽然と現れた。
温泉には露天風呂があった。真冬のような風が吹いていたが、温泉に浸かっていると、頭が冷えてちょうど良かった。わさわさと揺れる木々の向こうに星が見え、月が見えた。うーん、来て良かった。
帰り、かなり気温が下がっていた。バイクを走らせていると、温泉上がりの体が足元から冷えてきた。5℃くらいだろうか。
温泉の熱が冷めないうちに、急いで夕飯の準備。今夜は飯を炊いて、レトルトカレー。20時を過ぎ、まわりのキャンパーはもう寝る雰囲気だった。
カレーを食べて片付けると、もう21時を過ぎていた。寒いし、早く寝袋に潜り込みたかったが、まだやることが残っていた。焚き火。
夕方、管理人のじいさんから薪を買ったのだ。300円で、焚き付け用の段ボールの空き箱もくれた。さくっと燃やして温まって、さっさと寝よう。
他のキャンパーが寝静まった中、焚き火を始める。しかし、なかなか薪に火が付かない。ちぎった段ボールを威勢良く燃やしても、薪はこげるだけ、白い煙がもうもうと上がるものの、着火しない。うーむ、これは、薪が湿っているな……
段ボールを追加したり、思いっきり扇いだり、悪戦苦闘していると、隣のテントの青年が「火、見ててもいいですか」と声をかけてきた。
あいにく、こんな状況なんで……と苦笑いで答えたが、ふと見ると薪に火が付いていた。地道に段ボールを燃やし続けたのが功を奏したらしい。
燃えにくい薪をのんびり燃やしながら、色々と話をした。
彼は地元民で、この湖のすぐ近くに住んでいる。アウトドアに興味があり、色々と道具を買い集めているのだが、嫁が幼い娘たちを屋外に連れ出すのを渋って、家族キャンプを許してくれないらしい。今日は嫁が子供を連れて実家に帰ったので、彼一人でキャンプに来たのだった。
この檜原湖は、夏はバスフィッシング、冬はワカサギ釣りができるという。キャンプもできるし、羨ましい環境だなと思ったが、地元民に言わせると、それは「レジャー」ではないとのことだった。彼は、家族を連れて車で東京ディズニーランドに行ったときの話をしてくれた。「首都高、怖かったっす!」
やはり、自分の日常性から離れた場所に身を置かないと、「レジャー」にならないのかもしれない。
「趣味」って金かかるよね、とか、とりとめもなく話しているうちに、薪が燃え尽きた。もう23時に近かった。火が尽きると寒さが身に染みた。それぞれのテントに戻り、就寝。
この夜は前夜よりも寒かった。目一杯着込んで寝袋に潜っても寒い。ライディングジャケットの防寒インナーまで着て、ようやく眠れた。でも安眠まで行かず。-11℃対応の3シーズンシュラフでは、この冷え込みに対応するのは無理だった。
しかし日の出を見たかったので、無理矢理、5時半に起床。そもそも、このキャンプ場を選んだのは、日の出が名物と聞いたから。外に出ると、もう東の空が明るくなっていた。
湖から、霧が立ち上っていた。大気と水面の温度差が大きいときに起きる現象。冷え込みが厳しい証だ。
6時、湖の対岸の山から太陽が現れた。噂に違わぬ、すばらしい日の出だった。
朝日を浴びて、体を温めた。心地よい。
朝飯は昨夜買ったラーメン。麺を別ゆでするという本格的なインスタント麺だったが、スープを薄めすぎて残念な味になってしまった。しかし、途中で思いついてフリーズドライの卵スープを投入すると、劇的に美味しくなった。最初からこうすれば良かった。
朝日でテントを乾かして、のんびりと撤収。先に撤収を終えたCRF250L乗りのライダーが、声をかけてくれた。50歳くらいの熟年ライダー。ガエルネのオフロードブーツをびしっと履きこなしていた。しばらく、バイク話。林道走らないとタイヤもったいないよ、と笑われてしまった。
一人、また一人と去っていき、気がつくと自分ひとりになっていた。いつもこうだ。段取りが悪いのか、荷物が多すぎるのか。とりあえず、もう少し荷物を減らしてみたい。今後の課題だ。
寝不足のせいか、少し頭痛がした。風邪かもしれない。当初の計画では磐梯山を越え、猪苗代湖を見てから帰るつもりだったが、最短距離で帰ることにした。渋滞もありそうだし。
こんな早くから帰るのは残念だけど、遠いし、仕方がない。また来年の春、ここに来よう。