『所有せざる人々』
2か月くらい前から読み始めて、今日ようやく読み終わった。アーシュラ・K・ル・グィン著、『所有せざる人々』。
最初に読んだのは、高校生のときだったか、大学生だったか。図書館でハードカバーを借りて読み、すごく面白かった記憶が残っていた。ル・グィンの中でもマイナーな作品なので、書店で目にする機会がなかったが、神戸のジュンク堂で見つけて、買ってみた。
地球に似た高度資本主義社会の惑星と、完全な無政府・無所有の社会が構築された砂漠の惑星を舞台に、1人の天才物理学者の人生を描いた壮大な物語。社会と個人との関係について繰り返し問いかけながら、個人が生きる意味というところまで突き詰めている。
ゆっくりとしたペースで物語が展開し、それでいて集中して読まないと理解できない文章が多いので、読書のテンションを維持するのが難しかった。高校生のときは相当いいかげんに読んでいたらしい。内容を全然覚えていなかった。
物語の終盤、主人公が演説するシーンがある。この演説に、この作品のエキスが詰まっている。翻訳者も全身全霊を込めて訳したらしく、素晴らしい訳になっている。
- 人を真に結びつけるものは愛ではなく苦悩である
- 何も持たない人は自由である
- 与えていないものを人からもらうことはできない、与えるものがなければ、自分自身を差し出さなければならない
など……
ここまで数百ページも語られてきた主人公の人生そのものが、このクライマックスの演説で思想として形になる。苦労して読んだ甲斐があった。高校生のときは、この面白さがわからなかった。
いつかもう一度、再読したい。