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『アルピニズムと死』『凍』

しばらく前に読んだ本について。

『アルピニズムと死』は、著名なクライマーである山野井泰史が自らの冒険的人生を振り返った自伝。そして『凍』は、山野井泰史・妙子夫妻の壮絶なヒマラヤ登山を沢木耕太郎が描いたノンフィクション。

『凍』で描かれているギャチュンカン登山は、『アルピニズムと死』でもハイライトになっている。薄い氷と雪に覆われたほぼ垂直の斜面を8000m近くまで登るという困難なクライミングに加え、登頂後に悪天候に見舞われ、マイナス30度以下の吹雪の中で過酷な下山を強いられた。極限状態の中でも、強靭な体力と冷静な判断によって生還することができたが、重度の凍傷によって手足の指を一部切り落とす結果となった。

先に『アルピニズムと死』を読み、そのあとで『凍』を読んだ。

『凍』は、入念な取材を積み重ねて作り上げられた良質なノンフィクションという印象。クライミングの知識がない読者を前提に、丁寧に書かれている。一方、『アルピニズムと死』は、アスリート(?)らしい直截的な文章。シンプルで具体的な記述が続く。基本的なクライミングの知識がないと、何を言ってるのかわからない(たまたまクライミングの本があったので助かった)。

 『アルピニズムと死』のギャチュンカン登山の記述も、シンプルでとても印象的だった。体力の限界を通り越し、体の中に死を感じながら、淡々と手順を繰り返して「下降」を続ける。ただひたすらに慎重であること、それが生き残るために必要なのだとわかる。

ただ、この登山の記述が10ページほどとあまりにも短く、しかも途中で終わってしまう。もっと知りたかったので、『凍』を読むことにした。

『凍』では、登山の記録だけでなく、山野井さんの生い立ち、妙子さんの生い立ち、二人の出会い、日常生活など、いろいろな背景を知ることができる。登山のプロセスも、奥多摩の自宅を出発して電車で成田空港に向かうところから書かれている(2人の質素な登山スタイルが印象に残る)。また、山野井さんの記録にはなかった、妙子さん視点から見た事態の推移も知ることができる。

『凍』を読み終えた時、欲していた情報を十分に得られたという満足感があった。ただ、『アルピニズムと死』で感じた深い余韻のようなものはなかった。山野井さんの文章には独特の魅力がある。素朴で詩的で、味わいがある。

読み返すことになるのは、『アルピニズムと死』の方だろうな。

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