『最後の物たちの国で』

先日、ホテルで読もうと松本の丸善で買った本。ポール・オースター著、柴田元幸訳。

家でポール・オースターの分厚い単行本が積んだままになっているので、またポール・オースターが増えてしまうなと思っていたが、帰って確かめたら「ポール・セロー」の本だった。ずっと、この二人の作家を同一人物と誤認していた…

行方不明の兄を探して、とある壊れた国に入った女性が、秩序が失われた街の混沌の中で自分を見失いながらも、なんとか生き延びていく話。帯には、「極限状態における人間の愛と死を描く現代の寓話」とある。

最初の方はカフカの小説のように不条理な状況が描かれていて、まさに寓話という感じ。絶望しかない街には死を望む人が多く、風変わりな自殺の方法がたくさん考案されている、というくだりが印象に残った。最高の死を迎えるために体を鍛えて走り続けるという「走者団」とか、奇妙な悲惨さが何だか面白い。

後半に向かうにつれて徐々に具体的な描写が増えて、陰惨さが増してくる。しかし、「本当の陰惨さ」は描かれていない。どこか、暖かさが漂っている。ぬるさ、と言えるかもしれない。暴力描写もほとんどない。作者の性格がにじみ出ているように思う。主人公がひどい目に遭っても、助けてくれる人が現れる。だから安心して読めた。その意味でも、寓話的なのかもしれない。

物語は最後に、かすかな希望を残して終わる。解説によれば、この作者の小説で結末に希望が残るというのは珍しいことらしく、そのせいでファンの間でも人気がある作品らしい。意外だ。

奇妙だが、記憶に残りそうな小説だった。

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