アキちゃん

まずい、ブログの更新が滞りすぎている。何か書かねば。

今日のお昼過ぎ。電車で出かける前に少し時間があったので、駅前のパンカフェに入り、メンチカツサンドを囓りつつiPhoneでブログ記事を書き始めた。南向きの窓から冬の日差しが差し込んで、気持ちの良い昼下がり。店内は、軽食をとろうとする人たちで賑わっていた。いつもは老人ばかりのこのカフェも、珍しく若い人が多い。

右隣のテーブルに20代前半と思われるカップルがやってきた。テーブルに飲み物を置いて(この店はセルフサービス)席に着くと、男の方がやおらスマホを取り出して女の顔を写真に撮った。その後、ふたりで写真を見ながらイチャつく→また写真を撮る→イチャつく、を繰り返し始めた。せっかくのコーヒーとミルクティーが冷めちゃうぞ、と要らん心配をしていると、左隣のテーブルから変な会話が聞こえてきた。

 

「アキちゃんって、キノコとりんごしか食べないんだよね」

 

えっ?

左のテーブルには、小学3年生くらいの女の子とその母親が座っていた。とくに注意を払っていたわけではないので、その前にどんな会話をしていたのかはわからない。突然、妙な言葉が聞こえたので、急に聞き耳を立ててしまった。

 

母親「アキちゃんって、キノコとりんごしか食べないんだよね」

女の子「そうだよー」

母親「全然トイレに行かないんでしょ。すごいわね」

女の子「んー、たぶん見てないときに行ってるんじゃないかな」

母親「こないだなんかさ、ハチに3回も刺されたんでしょ。それで次の日には平気で出てきてるじゃん。すごいと思わない?普通さ、ハチに1日3回も刺されたら次の日は寝込んじゃうよ。すごいわねー」

 

「アキちゃん」とは何者だろう? いや、そもそも人なのだろうか。キノコとりんごだけで人が生きていけるとは思えない。ウサギとかヤギとか、小学校で飼われている草食動物を指しているのかもしれない。しかし、母親はどうも人間のことを言っているように思える。トイレに行かないことが、なぜすごいのだろう。ハチに3回も刺される状況もわからない。

気になりすぎたので、さりげなくも必死で会話を聞き取っていたが、「アキちゃん」の正体はつかめなかった。アキちゃんちは家に収納を取り付けた、とかなんとか母親が言っていたので、恐らく人間なのだろう。パンを食べ終えると、親子はすぐに出て行ってしまった。

 

僕の頭の中に残されたのは、人とも獣ともつかない異形の姿をした「アキちゃん」のイメージだった。