『君の話』(三秋縋)

作者の三秋縋(みあきすがる)は、最近若い人に人気の気鋭の作家らしい(おっさん的な認識)。まったく知らなかったのだけど、友達から最新作を貸してもらった。

君の話

君の話

 

その友達は、とても面白い小説だと太鼓判を押す一方で、「今説明はしないから、とにかく読んで、感想を聞かせて欲しい」と、何か言いたげな顔をしながら本を貸してくれた。

読んでみて、納得した。確かにこれは「説明できない」小説だ。どう説明してもネタバレになってしまう。小説の構造自体が独創的で、その構造に命がある小説なのだ。冒頭から結末までが、絶妙なバランスを保って成立している(ただ、よく見るとアラもある)。一部分を抜き出して説明しても、この小説の特徴を表現することができない。

 

なので、僕がとりとめもなく考えたことを書くことにする。

 

『君の話』というタイトルを見たとき、もちろん、あの大ヒット映画を連想した。この小説がYour Storyなら、Your Nameの映画。作者がそれを意識していたかどうかは知らないが、この小説はあの映画をまるっきり裏返しにしたような感じがする。

あの映画が嫌いな人は、この小説が気に入るかもしれない。正統派の恋愛ストーリーに対する痛烈な皮肉、とも読めるから。しかし同時に、究極の恋愛を描いているようにも思える。登場人物の行動を冷静に眺めてみると、恐ろしく利己的で残酷なのだが、じっくり考えてみると、それが「悪いこと」とは思えなくなってくる。恋愛って何だろう、信頼って何だろう、人を好きになるって何だろうと、わからなくなってくる。そういう、読み手の価値観を試すような、優れた作品だと思う。

あと、これは変則的な時間SFである。といっても、タイムマシンは登場しない。タイムマシン(あるいは同じ効果をもたらす超常現象)を一切使わずに、過去を改変して現在を書き換え、美しくも苦しいロマンスを描くという、技巧的な小説なのだ。SF好きなら一読の価値があると思う。

 

まあ、僕の考えなど、どうでもいいことで。シンプルに、1ページ目を読み始めたら止まらなくなる、面白い小説なのだ。

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