ふたたび、オーディオを買う

子供の頃、家の応接間には立派なオーディオセットがあった。アンプ、レコードプレーヤー、チューナー、カセットデッキが専用のラックに収まり、スピーカーも(サイズだけは)立派なものだった。

ただ、父がそこで音楽を聴くことはほとんどなかったように思う。ごくたまに、休日の夜にクラシックのレコードをかけていたが、そんなに熱心に聴いている風には見えなかった。おそらく、オーディオを買っただけで満足してしまったのだろう。趣味に関して、父はそういうところがあった。

そういう「カタチから入る」性格は自分にもしっかり受け継がれているようで、社会人になり立てのころ、秋葉原で単品オーディオを買いそろえて独身寮の部屋で聴いていた。

その頃はウィスキーをちびちびやりながらジャズを大音量で聴くという生意気なことをよくやっていた(狭い部屋だったが、防音だけはしっかりしていた)。週末に渋谷のタワーレコードに行き、数時間かけてCDを買ってきて、部屋でじっくりと音楽と向き合う時間は楽しかった。

転職や何やらがあってライフスタイルが変わると、だんだん集中して音楽を聴くことが少なくなった。CDを買わなくなり、ラジオも聴かなくなった。ここ数年は部屋で音楽を聴くことすら少なくなり、3年前の引っ越しで、ついに部屋からオーディオがなくなった。音楽は電車かクルマの中でしか聴かなくなった。

 

 しかし最近になって、部屋で音楽を聴けないことが、だんだん寂しく感じるようになった。FMラジオも聴きたい。MacBookで音楽やラジオを流しても、スピーカーが貧弱すぎて物足りない。去年、東京に引っ越したのを機に、新しいオーディオを入れようと検討を始めた。

考えた条件は以下のとおり。

・コンパクトであること。フルサイズの単品オーディオ機器は男のロマンではあるが、場所をとるし、やたらと重いし、ホコリがたまるし、うんざりなのだ。

iPhoneと接続できること。CDは全部実家に置いたままなので、当分の間、僕の音楽ソースはiPhoneしかない。無線で接続できるレシーバーアンプが必要。

・CDが再生できること。この頃は配信やハイレゾが主流になりつつあるが、まだしばらくはCDが必要だと思う。もちろん、これまで買い集めてきたCDも再生したい。

・FMラジオが聴けること。家事のBGMに。

・光デジタル入力があること。テレビの音声もよい音で聴きたいので。

・アナログ入力があること。将来的にはレコードを聴けるようにしたい。

 

悩みに悩んで、日本メーカーの小型コンポ数機種に絞り込んだ。オークションで中古品も探してみたが成果がなく、1月中頃、吉祥寺のヨドバシカメラに向かった。

最初に、第一候補のコンポを試聴してみた。もうこれで決まりと思っていたので確認のつもりで試聴したのだけど、いまひとつピンとこない音がする。これは違うな。じゃあどうしよう……。

ヨドバシの店内をさまよっていると、DENONのコーナーで足が止まった。DENONの小型レシーバーアンプと外国製スピーカーのセット販売が結構良い、というネットの書き込みを思い出したのだ。

ヨドバシでは、DENONのアンプとDALIのブックシェルフスピーカーをセットで販売していた。試聴してみると、バランスのよい澄んだ音がする。小さいスピーカーなのに、低音も出過ぎなくらい出ている。さすが定評のあるオーディオメーカー、良い音を出すなぁ。

よく見たら、昨年末に発売されたばかりの新機種「OBERON」だった。おお、最新スピーカーが安く買える!

心が大きく揺らいだところに、ちょうどDENONの販売員が通りかかった。10分後には、配送伝票に住所を記入していた。

www.denon.jp

古くさくて垢抜けない外観にちょっと抵抗があったが、DENONの人いわく「電源部分がしっかりしているのでパワーがあり、基本的な音質では最新機種よりも上」だという。はやりのUSB-DAC機能やWiFi機能は搭載していないが(Bluetoothのみ)、構成がシンプルな分、電源部にコストがかけられているらしい。

DENONの人にすすめられるままに(ちょっと)高級なスピーカーケーブルも購入し、帰宅。翌日の夜に、本体とスピーカーが届いた。早速、テレビ台に設置。奥行きが長すぎてテレビ台の中に収まらなかったのは誤算だったが、幅がスリムなので上に並べることができた。

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この偽アンティークのテレビ台は、年末にメルカリで入手したもの。

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ウーファーに傷が!と思ったけど、これは傷ではなく木質系素材の繊維が見えているだけらしい。

音を出してみると、隅々まで澄み切ったクリアな音像が広がった。見慣れていた風景のもやが晴れて、遠くまでくっきり見渡せるようになったような、湖の濁りが消えて、船の上から水底まで見通せるようになったような、そんな感覚。最初に単品オーディオを買いそろえたときも、そういう感動があったことを思い出した。
しかし、どうにも気になったのが、低音が出すぎていること。バランスが崩れるくらいボンボンと響いている。スピーカーのエイジングが進めば治るのだろうか。

なんとなくレシーバーアンプの取扱説明書を読んでいるときに、原因が判明した。原因はスピーカーではなくアンプの方にあった。このアンプはDENON製スピーカーとのセット販売を想定して設計されているので、初期設定では、DENON製スピーカーに合わせて音が最適化されているのだ。メニューでこの最適化をオフにすると、過剰な低音がなくなり、バランスが良くなった。

この設定に気付かずに使い続ける人も少なくないのではないか。思わぬトラップだった。