リターン・オブ・ザ「本格」

しばらく前の週末。部屋の掃除をした後、息抜きにiPadで漫画でも読むかと「少年ジャンプ+」を開いたら(ジャンプだけでなく無料漫画もたくさん読めるアプリ)、『屍人荘の殺人』のコミカライズ連載が始まっていた。そういえば聞いたことがある……去年話題になった「本格」ミステリのはずだ。まったくの新人のデビュー作なのに、名だたるミステリ大賞を総ナメにしたという話だった。

興味を惹かれて、早速第1話を読んでみた。無料だし。(↓こちらはWeb版)

shonenjumpplus.com

……なるほど、これは斬新!「外界から閉ざされた館の中で連続殺人が起こる」という手垢にまみれたプロットを、こんな発想で生まれ変わらせるとは。

そうなると続きが気になってたまらなくなり、すぐさま原作の電子書籍を注文してダウンロードしてしまった。 

屍人荘の殺人

屍人荘の殺人

 

面白そう、という以外にも、気になった点がもう一つあった。漫画に描かれている、主人公の通う大学が、どうも僕の母校に思えて仕方がなかったのだ。大学の名前が「神紅(しんこう)」大学であるとか、登場人物のひとりが「小倉山」の医学部キャンパスに通っているとか(母校の医学部は「大倉山」にある)。世間ではあまりぱっとしない大学なので、小説で取り上げられていたら少し嬉しいかもと期待していた。

読んでみると、ただ単に設定が斬新なだけではなかった。その設定を生かした「仕掛け」がストーリーの進行にスピード感と緊張感を与えて、シンプルでわかりやすい面白さを生んでいた。ちょっとゲームシナリオ的な感じがして新鮮だった。

加えて、エンタメ小説としても、とてもよくできている。何より、登場人物の動機付けがしっかりとしているのが良い。なぜ名探偵が推理するのか、なぜ探偵助手(主人公)がそれに協力するのか、そして犯人がなぜ殺人を犯すのか(これはもちろん最後までわからない)。雰囲気で流すのではなく、はっきり描かれているからわかりやすいのだ。あと、専門的なトピックには必ず解説が(自然な形で)挿入されるのが親切。さらに、連続殺人ミステリにつきものの登場人物の多さをカバーする、面白い仕掛けも用意されている。とにかく配慮が行き届いている。

大胆にも「本格」を宣言しつつ、ミステリマニアではない読者も意識して、一流のエンタメ小説に仕上げてしまった作者は、本当に新人なんだろうか。感心してしまった。ちゃんと続編を意識した結末になっているのもすごい。単行本価格の電子書籍を買ったのは初めてだったけど、損はしなかったと思う。

もっとも、残念なことに作者のプロフィールを見る限りでは母校にゆかりのある人ではなさそうだった。その点はまだ気になる。本当のところ、どうなんだろう。

続編は、もう少し余韻を楽しんでから買ってみようと思う。