猪モツ祭り

子供の頃。ボーイスカウトの活動で山を歩いていると、散弾銃の薬莢を拾ったことがあった。泥にまみれたプラスティックの薬莢には興味を惹かれなかったが、現実に山で猟銃を撃つ人がいることに、なんだか不思議な感じがしたのを覚えている。

5、6年前から、僕は狩猟に興味を持つようになった。シカやイノシシの獣害が社会問題化するなかで、猟師が書いた書籍が話題になっていた。僕もいくつか読むうちに、「狩猟」という行為、日本の社会では(どちらかと言えば)蔑まれていた文化に興味を惹かれるようになった。

とはいえ、身近に猟師がいなければ、その現場を見ることは叶わない。それならと、自分が猟を実践しようにも、越えなければならないハードルが大変すぎる(狩猟免許取得、銃砲所持許可取得、狩猟者登録、猟友会加入、銃砲その他装備の購入、etc)。本を読んだり、ドキュメンタリー映像を見たりして、想像するしかなかった。

数か月前。たまたま、あるブログを読んでいるときに、狩猟サークルの募集を知った。そこでは、銃や狩猟免許を持っていない人も、会費を払うことで間接的に狩猟に関われるようになるという。また、猟師の側にもメリットがある。狩猟には結構な費用がかかるにもかかわらず、獲った獲物を現金化する手段がほとんどない。それを、会員からの資金でまかなうことができるのだ。

その会費は少なからぬ金額ではあったが、こんな機会はめったになかろうと、会員になることにした。活動拠点が、自宅からさほど遠くない場所だったことも決め手だった。

11月から始まる猟期を前に、プレイベントが募集されたので、さっそく行ってみることにした。冷凍してあった前年の獲物の肉で料理を作って、宴会をするという。

説明会のときに鹿肉をいただいたので、てっきり今回も肉を食べられるのだと思っていたのだが、用意されていたのはイノシシの臓物だった(捨てる猟師も多いらしいが、このグループでは余さず食べるとのこと)。

「はい、これよく洗ってから切っておいてください」と渡されたのは、心臓。血抜きされ、冷凍されていたものなので、グロテスクな感じはしない。右心房と左心房がこうなって、大動脈はこうなってるんだー、とか、意外に冷静に観察している自分がいた。そういえば、豚の心臓は人間の心臓と同じくらいの大きさというから、人間のもこれくらいなのかな……と思いながら、包丁で心臓をスライスしていた。

一緒に初めて来ていた男性は、巨大な肝臓を渡されて四苦八苦していた。人間のより大きいんじゃないだろうか。

次に渡されたのは、イノシシの舌、つまりタン。牛タンよりはだいぶ小さい。表面には緑色の舌苔がこびりついていて気持ち悪いので、皮を包丁で削り取らなければならない。

サイズが小さいぶん、深く包丁を入れると肉がなくなってしまうので難しい。試行錯誤するうち、だんだんコツがわかってきた。皮を引っ張りながら、皮の下に包丁を入れて削いでいく。最後に、焼肉の牛タンをイメージしつつ、なるべく薄切りにスライスして、どうにか形になった。

 

(写真を掲載しようと思ったけど、グロいのが苦手な人に配慮して自粛)

 

心臓とタンは焼肉、膵臓と腎臓と腸はトマト煮込み、肝臓はオリーブオイルで煮込んでコンフィに。かくして、オール猪モツな宴席が完成した。

お味は……やはり獣臭さとの戦いだった。大量のトマト、タマネギ、ニンニク、ハーブが投入された煮込みは、臭みがほぼ消なくなり、かなりおいしかったが、塩を振っただけの焼モツには濃厚な獣の味が残っていた。猪タンは牛タンよりも柔らかく、個人的には気に入ったが、後味がなかなか強烈だった。翌日まで口の中に獣の味が残っていた。

 

ジビエって、味が濃くて家畜とは全然違う旨味があるのだけど、とにかく臭い。そこに慣れていけるかどうか、ちと不安である。

猟期が始まれば、狩りの現場を見たり、獲物の解体を手伝ったりすることになる。自分がどういう反応を示すのか。今から楽しみだ。