猟のリアル

11月上旬から、猟期に入った。

毎週のように山奥に出かけて、狩猟サークルの猟に参加したが(免許のない自分は見学&勢子のみ)、まだ獲物が捕れる現場には立ち会えていない。猟場は2〜3km四方くらいの広さしかないものの、山あり谷ありの険しい地形。シカは200mくらい離れていても人の気配を察知するから、狩り出すのは容易ではない。

勢子(セコ)が音を出して移動しながらシカを特定の場所に追い込み、隠れている銃手(タツ、と呼ぶ)に仕留めてもらうというのが、「巻き狩り」。理屈は簡単なのだけど、なかなかうまくいかない。シカがどちらに逃げるのか、ある程度予測して作戦を立てるのだけど、勢子が目視する前にシカが逃げてしまう場合が多く、無線で「そっちに行ったぞ!」とか伝えるチャンスがあまりない。予想外の方向にシカが逃げてしまうと、シカの姿さえ拝めずに、無駄に待ち続けることになる。

実感したのは、狩猟の成功率の低さ。人間よりも鋭敏な感覚を持つ野生動物、しかも個体数の少ない大型哺乳類をとらえるのは難しい。たとえ銃があったとしても、お手軽に肉ゲット!とはならないのだ。

最近の研究で、石器時代の人類が摂取していたカロリーの大半は、狩りで得た肉ではなく、木の実などのデンプン質だったことがわかったらしいが、当然だと思う。

4回の出猟で、僕がシカの姿を見たのは2回だけ。1回は200m以上離れていたので、木立のなかで白い尻がチラチラ見えただけだったが、もう1回は50mほどの近距離だった。同行していた人に言われて背後を振り向くと、4頭の群れがこちらを警戒しつつ、冬枯れの斜面を渡っていた。野生のシカを見たのは初めてではなかったけど、その瞬間は、なんてキレイなんだろうと心を打たれた。

シカが視界から消えてしばらくすると、銃声が響き、火薬の匂いが漂ってきた。撃った人はグループのなかで最も射撃の上手いベテランだったが、当たらなかった。

このとき、また僕のなかで迷いのようなものが生まれた。自分の手で動物を殺すわけではないけれども、獲物を仕留める猟師たちを見る自分はこれから何を感じるのだろうと……

都会に戻って仕事をしながら、つらつらとそんなことを考えているうちに、獲物がとれたという知らせが入った。山に仕掛けていた罠に、シカがかかったのだった。続く。

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