『皆勤の徒』

しばらく前に読み終わった本のメモ。第34回日本SF大賞受賞作。

ひさびさに、夢に出てくるくらい強烈な読書体験だった。本を開くと、見慣れない漢字を組み合わせた異様な造語でページが埋め尽くされている。ページの表面に、うっすらと異世界の空気が漂っている。

最初、カフェで20ページほど読んでみたが、まったく頭に入ってこなかった。家に帰って、腰を据えて最初から読み直してみると、やっと何かがおぼろげに見えてきた。しかし、何か意味不明なモノを頭に無理やり押し込められたような違和感があった。何度も後戻りしながら少しずつ読み進めて、80ページほどの表題作をなんとか読み通すことができた。しかし、不定形の異様な物語を頭に押し込んだだけで、半分も理解できていなかった。

この本には4つの短編が収録されて、各短編の間に短い断章が挟み込まれている。どうやらその断章が物語を理解するヒントらしいのだが、これがまた全然理解できない。

それでも、読み進むうちにこの独特な文体にも慣れてきた。この世界の構造が少しずつ見えてくると、面白く読めるようになってきた。軽くネタバレになるが……各短編がこの世界の年代をさかのぼるように配置されており、後の作品を読み進むほどに謎が解け、理解が進み、読みやすくなってくる仕組みになっている。読み解きながら読む読書の快感を楽しめる。

逆に言えば、巻頭の表題作が最も難解で読みづらい。ここで挫折する人は少なくないと思う。そういう人は、「解説」を先に読んでしまうことをおすすめする。これを読めば、すべての謎が明らかになる。自分も「解説」を読んで、初めてこの世界の全容を理解できた。

4作品はすべて趣向の違うSFになっていて、それぞれ違う楽しみがあるのだが、自分は巻末の作品『百々似連隊』(ももんじれんたい)が気に入った。「風の谷のナウシカ」を彷彿とさせる、ディストピアファンタジー。読後感が爽やかで、気持ちよくこの本を読み終えることができた。

最初は、独自の文体とか言葉遊びとか、表面的な部分ばかり目につくが、 よく読むと、小説としてとてもしっかり書かれていることがわかる。著者の酉島伝法という人、新人らしいが、素晴らしい才能の持ち主だと思う。今後の作品に期待したい。

 

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