『羆嵐』

ヒグマの恐ろしさを克明に描いた傑作として知られる、この長編ドキュメンタリー。以前本屋で見かけたときに買っていたのだが、積んだままになっていた。ネットでは「ものすごく怖い」と評判だったこともあり、なかなか気軽に読み出せなかった。

先日、NHK BSで、知床を取り上げた番組の再放送を見た。ヒグマがたくさん出てきた。極寒の地で痩せた土地を切り開き、生き続けてきた開拓農家の人々も。そろそろ、読むべきか。と思って、おもむろに読み始めた。

30分後。胃の底のあたりが痺れてくるような恐怖を感じた。日本海側の手塩山麓、真冬の夜。極寒の闇の中から、巨大な獣が襲ってくる……

 

十数年前の夏、1人で北海道をバイクで旅行していたとき、色丹半島の寂れたキャンプ場にテントを張った。自分以外には誰もいない。

寂しいけど、気楽だから良いか。と思っていたら、後から地元の人たちのグループがキャンプにやってきた。小さなテントの側でぼんやりしている自分をバーベキューに誘ってくれたのだが、「こんなところに1人で寝とったらクマに食われるぞ」と、呆れ顔で言われた。

それから何年も経ってから、上野動物園で本物のヒグマを見た。予想以上の巨大さに戦慄した。確かに死ぬわ。あの旅の前に、この本を読んでおくべきだったな。

 

実際の事件を描いた作品だが、物語として、とても面白く読めた。ヒグマの残忍さに恐れおののく村人たちと、自分の土地を守るために恐怖と立ち向かう区長と、伝説的なヒグマ撃ちでありながら素行不良で村八分にされた老猟師と……実写映画にしたら面白いだろうと、読みながら何度も想像した。

それにしても、ヒグマ猟は1人で行うというのは本当だろうか。現代のヒグマ撃ちはどんな方法を使っているのかと思って検索してみたが、ヒグマ専門の猟師なぞ、もういないようだ。

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初弾でヒグマの急所に当てないと、逆襲されて死ぬのがヒグマ猟。しかも当時(大正4

年)の銃は精度が低く、作中の猟師は10メートル以内に近づかないと当たらないと言っている。クマに気配を悟られないように1人で行動し、何日もかけて追い続け、風下から至近距離まで忍び寄って一撃で仕留める。なんというストイックな狩猟。

 

最近、狩猟の本をいくつか読んでいる。魚釣りすらしない自分が実践することはこの先もないだろうけど、ヒトと自然がフィジカルにぶつかる行為は、とても興味深く感じる。


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