宝石は冷たい

残暑、というには暑すぎる1日だった。朝から、猛烈な日差し。10時過ぎに公園にウォーキングに行ったら、ランニングのイベントが開かれていて、たくさんのランナーが汗だくになりながら走っていた。

臨時の給水所も設けられていて、ボランティアが水を配っていた。水の他にスポーツドリンクも配っていたのだけど、紙コップを並べたテーブルに「ポカリ」という張り紙が貼られていたのが面白かった。しかも縦書きだった。いや、ポカリスエットの略なのはわかるけど。「ポカリ」とだけ紙に書かれると、何か新種の言葉のようで、笑えてくるのだった。

 

さて、最近面白かった漫画の話。

宝石の国』も、ずっと気になっていた漫画だった。いつものTSUTAYAで既刊9巻まで借りて読んだ後、つい最近出た10巻を辛抱できずに購入し、勢いで1〜9巻のセットをメルカリで購入してしまった(最近、このパターンが多い)。

物語の舞台は、人間が姿を消した後の、はるか未来の地球。鉱物の結晶から生まれた人型の生きもの「宝石」と、空から襲来する「月人」との戦いを描いている。

宝石たちは美しい人の姿をしているものの、性別はなく、日光をエネルギーとし、無限の命を持つ。それぞれに豊かな個性を持ち、石英の巨岩をくりぬいて作られた「学校」で、楽しげな共同生活を営んでいる。何百年も。

人がいない荒涼とした世界に、美少年/少女の姿をしたものたちが、人とは何かを知らないまま暮らしている。その徹底して人間が排除された世界の冷たさがたまらない。ちょっと気持ち悪さを感じるほど。これほど異様な世界をゼロから発想し、作り上げた作者は、どういう人なんだろうと思う。

物語は、ひとりの宝石が「人間」に興味を持ったことから動き始める。

自由奔放なキャラクターが好奇心の赴くままに行動し、物語を動かしていくというお話は多いけれども、この漫画の主人公は好奇心から軽率な行動を起こして、自身と仲間を破滅へと導いていく。真実に近づくほど、不幸になる。まったく非人間的な世界を描いているのに、とても現実的・人間的なストーリーなのが面白い。

冷ややかで美しい絵も、心地よい。続きが楽しみだ。

晴れ女と無鉄砲

更新サボりまくりの夏。まあ、特筆すべきこともない夏なのだけれども……猛烈に暑いこと以外は。

 

久しぶりに、映画を観に行った。

tenkinoko.com

物語の舞台は新宿近辺ということだったので、歌舞伎町の奥にある映画館までわざわざ観に行った。前来たときはコマ劇場がまだあったから、何年ぶりだろう。相変わらず緊張感の漂う街だった。地獄のような猛暑で、さらに殺伐感が増していた。

今回の『天気の子』。前の『君の名は。』よりも、さらに低い年齢層の少年少女を意識して作られた作品と感じた。もっとわかりやすく、もっとストレートに。大人の視線も随所に入っていて、大人向けの劇場映画としてのバランスもとられているが、主役はあくまでも少年少女。それが徹底されている。

個人的には今ひとつ物足りない結末だったが、オッサンがとやかく言う映画じゃないな、とも思った。

Three body problem

曇天・曇天・また曇天。太陽が見えない日々。

気温も低くて、長袖を着る始末。夏はどこに行ったんだろうかと嘆いていたら、太陽が出てこないまま蒸し暑さだけが増してきた。嫌な夏の感じ方だ。

今日ようやく、週間天気予報に晴れマークが出てきた。来週から、いきなり真夏が始まりそうだ。

 

先週、読んだ本。

三体

三体

 

数年前から「中国にSF超大作が出現した」と話題になっていた作品。英訳されて米国で出版されるや、世界で最も権威のあるSF文学賞ヒューゴー賞」を獲得した。そんなすごい作品が、なぜか日本では翻訳されておらず、もどかしい思いをしていたのだけど、ようやく早川書房から出版された。

僕が吉祥寺のジュンク堂で手に入れたときには、平置き台に2冊しか残っていなかった。飛ぶように売れているらしく、各書店のランキングでも上位に食い込んでいる。海外SF小説としては異例の大ヒットだろう。

内容は、近未来の中国を舞台にしたファーストコンタクトもの。文化大革命の暗い歴史を背景にしながら、宇宙規模の壮大なストーリーが展開される。次々と起こる奇想天外な事件から、意外な真相が浮かび上がり、最後には途方もないスケールの真実が明らかになる。

ストーリーも非常に面白いのだけど、登場人物の心理を丁寧に描いていたり、自然の風景を詩的に描写したりしているのが魅力的だった。作者のインタビューによると、小松左京の影響を強く受けているとのこと。たしかに、人間くさい登場人物がたくさん出てくるのは小松左京っぽい。

詩的な自然描写には、中国の伝統を感じた。表現のやり方が、英米文学とも日本文学とも違っている。翻訳でどの程度変わっているのかわからないけど、「中国的」と言われれば納得できるような感じ。昔読んだ武侠小説をちょっと思い出した。

主人公(北京在住の男性科学者)の考え方や価値観も、日本人とはだいぶ違うように思う。たとえば「社会階級」の存在を当たり前のものととらえる意識。エリートである彼は、下層階級の人々と一切交わらず、距離を置いている。ちょっと違和感がある。ただ、小説にはそうした人々も別のパートで登場するので、作者自身はそうではないのだろう。個人的には、現代中国のエリート層の生活を垣間見るような感じが面白かった。

現在、アメリカではこの作品を連続ドラマとして映像化する企画が進められているらしい。あのシーンやこのシーンはどう映像化するのだろう……楽しみだ。アメリカ人が中国人社会をどう描くのかも興味がある。

続編は、来年翻訳されるとのこと。また、首を長くして待つことになりそうだ。

Long live the King!

ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』を観に行った。

godzilla-movie.jp

もともと、前作の評判が良くなかったので、この映画もあまり期待していなかった。しかし、Twitterで目にするのは絶賛の声ばかり。だんだん気になってきた。

でも前作を見てないしなぁ。と、思っていたらAmazonプライムビデオの無料映画になっていた。先週、実家に帰ったときにiPadで視聴。そして昨日、劇場に足を運んだ。

 

せっかくなので、ゴジラ映画にふさわしい映画館に。

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TOHOシネマズ日比谷

朝、ネットで座席を予約してから出発。うちからだと電車で1時間かかってしまうが、久しぶりの映画なので立派な劇場で見たかった。ここは、東宝が誇る最新鋭のシネマコンプレックス。ゆったりとしたロビーの窓に、日比谷公園の緑が映えて、気持ちよいのだ。

ただ、公開日から日にちが経っているせいか、小さいシアターでの上演だった。ちと残念。でも席は満席になっていた。

前作は、肝心のゴジラのバトルシーンが地味すぎたのが不満だった。iPadで見ていると画面が暗すぎて、何が起きているのか皆目わからず。でも今作は、そんな不満を吹き飛ばすがごとく、ゴジラキングギドラが暴れまくる。

特に最終決戦に臨むときのゴジラは、ヤクザ映画で抗争相手の組事務所に単身殴り込みをかける組長のような(?)凶悪な迫力があり、非常にかっこよかった。思わずゴジラに声援を送りたくなる。スカッとするバトルだった。

個人的には、「ゲーム・オブ・スローンズ」でタイウィン・ラニスターを演じていた人が登場したのが嬉しかった(ラニスター家の人々は結構好きなのだ)。というか、キャラ設定が似ていたので、同一人物に思えて仕方がなかった。あなたが「Long live the king!」と言うかと、ちょっとおかしかった。

そういえば、気になったのが「Long live the king!」の訳。字幕では、「king」を直接的に「王」「キング」などと表さずに、なぜだか妙にぼかした感じに訳していた。日本の政治的な状況に配慮したのだろうか(だとしたら嫌だな)。

久しぶりの映画鑑賞は、かなりの満足だった。すでに製作が決まっている続編の想像をふくらませながら、大雨の中、電車で帰った。

しかし、往復2時間の電車と2時間半の映画で座りっぱなしだったせいか、翌朝、腰が痛くなってしまった。情けない……

僕が暮らさなかった町

<追記あり>

TSUTAYAで、前から気になっていた漫画を借りた。

 2005年に連載開始、2010年にはアニメ化され、2013年にはメディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞したという大ヒット作ながら、僕は去年まで存在を知らなかった。もう連載も完結しているので、世間的には忘れられつつあるのかもしれない。あえて今、読み始めてみるのも一興か……と、偉そうなことを考えながらコミックスを数冊借りてみた。

ジャンルもよく知らないまま読み始める。内容は、東京の人情味あふれる商店街を舞台に、ヒロインの女子高生が騒動を繰り広げるという、日常系ギャグマンガだった。ヒロインが商店街の地味な喫茶店でメイドの格好をしてバイトしていることを除けば、設定に突飛な点はなくて、オーソドックスな1話完結型のお話が続く。

普通に面白く読めるが、僕的には、ギャグがあまり響いてこなかった……

ただ、1巻の「あとがき」に気になる情報が書いてあった。この作品の舞台のモデルになった商店街が東京に実在していて、作者自身がそこに暮らしていたと。

僕は作中の商店街の名前(架空)を見て、すぐにわかった。一時期、そこに引っ越すつもりで部屋探しをしていたからだ。

多摩川沿いのこの地域は、ごちゃごちゃした町並みながら、のんびりした空気が漂っていて、ちょっと散歩しただけでも居心地の良さを感じられる、良いところだった。夕方になると豆腐屋がやってきて、表に出てきた奥さんたちが世間話を始める。多摩川の土手を学校帰りの高校生がそぞろ歩き、その向こうに大きな夕日が沈む。

家賃が安かったのも、大きな魅力だった。この漫画の連載が始まる5年前の話だ。

本格的に不動産屋巡りをしようとしていたそのとき、会社が埼玉に移転してしまったので、この町に住むことは叶わなかった。もしここに引っ越していたら、どうなっていただろう。漫画を読みながら、そんな妄想をしていた。漫画のなかで描かれているような、面白くて愉快な日常を送れたかも(可能性はゼロではない!)。

今の人生が面白くも愉快でもない、わけでもないが、違う人生を想像してみたくなる自分がいる。

「絶えず幸福になろうとしている状態にあるかぎり、われわれはけっして幸福になることがない」と書いたのはパスカル先生だけど、まあ、そういうことなのだろう。

続きが気になるので、ちょっとずつ借りて読んでみよう。

 

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ようやく全巻を読み終えた。評価を改めようと思う。

 

1巻を読み始めた当初は、ヒロインを含む仲良し3人の三角関係を中心としたラブコメギャグマンガと思っていた。しかし、ヒロインが筋金入りのミステリ小説マニア、という設定が生き始めると、雰囲気が変わってきた。素人女子高生探偵が、チェスタトンの短編ミステリのごとく身の回りの謎を解き明かすという、独自の路線を歩み始めたのである。そのうち作者も調子が出てきたのか、各話の時系列をシャッフルしたり、伏線を別の話の中に隠したり、面白い仕掛けを施すようになった。ミステリに加えてSFやオカルト的なストーリーもあって楽しめる。

あと、高校生活の描写が妙にリアルで面白かった。ごく普通の共学の公立高校の、のんびりと気の抜けた雰囲気がよく出ている。恋愛の描写も、(男性から見て)理解不能な女性の行動がリアル。ドライで夢がなくて、良い。

最終話は、ファンの賛否が分かれそうな内容だった。読者が一番気になっていたことが、解決されずに終わるからだ。けれどもこれは、「終わりなき日常」を何よりも愛しているヒロインの意思なのだろうと思う。

 

朝の楽しみとして、通勤電車の中で1冊ずつ読み続けていた。最終巻を読み終えるのが寂しかった(結局、全巻買い揃えた)。

リターン・オブ・ザ「本格」

しばらく前の週末。部屋の掃除をした後、息抜きにiPadで漫画でも読むかと「少年ジャンプ+」を開いたら(ジャンプだけでなく無料漫画もたくさん読めるアプリ)、『屍人荘の殺人』のコミカライズ連載が始まっていた。そういえば聞いたことがある……去年話題になった「本格」ミステリのはずだ。まったくの新人のデビュー作なのに、名だたるミステリ大賞を総ナメにしたという話だった。

興味を惹かれて、早速第1話を読んでみた。無料だし。(↓こちらはWeb版)

shonenjumpplus.com

……なるほど、これは斬新!「外界から閉ざされた館の中で連続殺人が起こる」という手垢にまみれたプロットを、こんな発想で生まれ変わらせるとは。

そうなると続きが気になってたまらなくなり、すぐさま原作の電子書籍を注文してダウンロードしてしまった。 

屍人荘の殺人

屍人荘の殺人

 

面白そう、という以外にも、気になった点がもう一つあった。漫画に描かれている、主人公の通う大学が、どうも僕の母校に思えて仕方がなかったのだ。大学の名前が「神紅(しんこう)」大学であるとか、登場人物のひとりが「小倉山」の医学部キャンパスに通っているとか(母校の医学部は「大倉山」にある)。世間ではあまりぱっとしない大学なので、小説で取り上げられていたら少し嬉しいかもと期待していた。

読んでみると、ただ単に設定が斬新なだけではなかった。その設定を生かした「仕掛け」がストーリーの進行にスピード感と緊張感を与えて、シンプルでわかりやすい面白さを生んでいた。ちょっとゲームシナリオ的な感じがして新鮮だった。

加えて、エンタメ小説としても、とてもよくできている。何より、登場人物の動機付けがしっかりとしているのが良い。なぜ名探偵が推理するのか、なぜ探偵助手(主人公)がそれに協力するのか、そして犯人がなぜ殺人を犯すのか(これはもちろん最後までわからない)。雰囲気で流すのではなく、はっきり描かれているからわかりやすいのだ。あと、専門的なトピックには必ず解説が(自然な形で)挿入されるのが親切。さらに、連続殺人ミステリにつきものの登場人物の多さをカバーする、面白い仕掛けも用意されている。とにかく配慮が行き届いている。

大胆にも「本格」を宣言しつつ、ミステリマニアではない読者も意識して、一流のエンタメ小説に仕上げてしまった作者は、本当に新人なんだろうか。感心してしまった。ちゃんと続編を意識した結末になっているのもすごい。単行本価格の電子書籍を買ったのは初めてだったけど、損はしなかったと思う。

もっとも、残念なことに作者のプロフィールを見る限りでは母校にゆかりのある人ではなさそうだった。その点はまだ気になる。本当のところ、どうなんだろう。

続編は、もう少し余韻を楽しんでから買ってみようと思う。

野球観戦

5月25日。友達に誘われて、「東京ヤクルトスワローズ中日ドラゴンズ」の試合を見に行った。おりしも、ヤクルトが悪夢の連敗街道をひた走っているさなか。ファンではない自分としても微妙な気分で神宮球場に向かった。

天気は快晴、風も気持ちよい。不眠症による寝不足がピークで、頭がモーローとしていたが、気候の爽やかさで気分が良くなった。

誘ってくれた友達がファンクラブの会員で、全員分(4人)のチケットを押さえてくれた。送られてきたQRコードiPhoneの画面に表示して、球場入口の端末をかざすと、チケットが発券された。これは便利なしくみだ。

ナイター観戦ということで、帽子を持たずに出かけたのだけど、ちょうど日が長い時期。試合開始1時間前の17時、外野スタンドに出ると、猛烈な西日が真正面から照りつけていた。

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暑すぎるし、まぶしすぎる。たまらず、帽子を買うことにした。これも記念だ。いったん球場の外に出て、ヤクルトグッズの売店でチームロゴ入りキャップを買った。生まれ育った環境から阪神ファンになってしまった僕だが、そんなに熱心に応援しているわけではないし、今の地元である東京のチームのグッズを持っていてもバチは当たらないだろう。

遅れて現れた主催者の友達は、レプリカユニフォームに身を固めたガチ応援スタイル。普通の格好で来た他の3人にも、チームシャツを配ってくれた。

でっかいタンクを背負った売り子のお姉さんからビールを買って、皆で乾杯。試合が始まった。

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1回裏から青木のホームランが飛び出す展開で、なかなか楽しかったが、中日の打撃陣も好調で、すぐに点を取り返される。ヤクルトも反撃したが、点になるのはソロホームランだけで、連打が出ない。そのうちピッチャーが打ち込まれて、最後は満塁から長打を浴びて大量失点。連敗記録が1つ伸びた。

これだけ負けが込んで、試合でも相手にやられ放題なのに、ヤクルトファンはヤジも飛ばさず、「まぁしょうがないね」的な、淡々とした雰囲気だった。チャンスで一打が出なくても、がっかりするだけで、怒り出す人はいない。おかげで、僕のような部外者も安心して楽しむことができた。

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一方、中日ファンの応援は迫力があった。三塁側スタンドを青く染めて、野太い歌声を球場全体に響かせていた。東京在住の中日ファンが集結しているから、熱心な人が多いのだろう。

阪神が来たら、もっとすごそうだ。この友達がヤクルトvs阪神の試合に誘ってくれたら喜んで行くと思うが、ヤクルトの応援団の中で微妙な気分で観戦することになりそう……