もののけ

先週から、六甲山の中腹にある姉の家に滞在している。姉夫婦が海外出張で家を空けているので、その間、姉の家で仕事をしながら留守番と犬の世話をしてきた。

朝晩、犬の散歩をする。これが、言うことを聞かない活発な柴犬なので、簡単にいかない。リードをずんずん引っ張る。しかも一度外に出ると1時間くらい帰ろうとしない。

和犬の習性として、自分の家では絶対にうんち・おしっこをしないので、雨だろうが風だろうが散歩に連れ出さなくてはならない。今週は月曜日から荒天が続き、雨風強く気温も低く、なかなか大変だった。

3/20の朝も、天気が悪かった。6時半ごろ外に出ると、折れた小枝や緑の葉が道路に散乱していた。前日から降り続いた雨は小雨になっていたが、まだ風が強かった。傘が強風であおられて持って行かれそうになるので、諦めて閉じた。ハイキングに行くつもりで持ってきたウィンドブレーカーが役に立った。

この犬は雨が嫌い(というか、水に濡れるのが嫌い)なので、雨の日は引きずるように連れ出すのだけど、この日はなぜだか積極的だった。いつものコースを10分ほど進んだ後、急に引き返して、元来た道をもの凄い勢いで進み始めた。気まぐれなヤツだなと思いながらついていくと、ついさっき通り過ぎた道の脇に、何か妙なものがあるのに気がついた。

暗灰色の大きな毛玉。モサモサした毛で覆われていて、高さ30cmほどの卵形をしている。一瞬、クッションか何かが放置されているのかと思ったが、違う。生き物の気配がする。

ごうごうと風が吹き渡るなかで、不気味な物体を目にして、ちょっと怖くなった。動悸が速くなる。物体に向かって突き進む犬をリードで押さえながら、慎重に近づいた。

卵形がもぞもぞと動いて、顔が現れた。小さな顔だが目の周りだけ黒く、恐ろしげな雰囲気。「KISS」の悪魔メイクの人に似ている。 

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タヌキ?じゃない、アライグマだ。こんなところで何をしているのだろう。ふと、数年前に雨降る田舎道で見かけたタヌキを思い出した。そいつもこんな感じで、道路の真ん中で立ち尽くしていた。雨に降られて、弱ってしまったのだろうか。

犬を2mくらいまで近づけてみたが、アライグマは動かなかった。反撃されたら怖いのでそれ以上近づけるのは止めておいた。郊外の山の中なので、イノシシはよく見かけるのだけど、アライグマを見たのは初めてだ。

もう明るかったからよかったけど、薄暗がりの中であれに出くわしたら、確実に妖怪だと思っただろう。モサモサしながら、人を待ち構えている妖怪。

その日の夕方、また散歩に行くと、アライグマは同じ道路の脇の土手に穴を掘って、そこで丸くなっていた。近づいても反応しない。死んだのかと心配したが、よく見るとピクピク動いていた。翌日には、いなくなっていた。