『忘れられた巨人』(カズオ・イシグロ)

カズオ・イシグロは、好きな作家だ。

でも好きだからこそ、読めないという現象が起きる。読み始めた後、読み終わるのが寂しいから、ちびちび読むというのは誰でもあると思うが、それを通り越して、そもそも読み始めるのがもったいないというアホな境地。この作品も、出版前からすごく期待していたのに、読み始めるまで2年もかかってしまった。

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しかし、待った甲斐(?)はあった。ドラゴンやオークが跋扈する中世のイギリスが舞台ということで、ジャンルとしてはファンタジー小説になるのか。ただ、怪物などの「ファンタジー要素」はあくまでも脇役で、あっさりと描写されている。登場人物の過去が徐々に明らかになる叙述は、どちらかというとミステリー小説のようだった。物語の視点が変わるたびに、謎が明らかになっていく。面白かった。

クライマックスは、黒澤明の映画のよう。やがて最後の謎が明かされて、この世界全体の構図がぱーっと明らかになる。わかりやすく、考えさせられるメッセージ。これは、エンターテインメント作品だなぁ。

しかし、「カズオ・イシグロ」らしさが凝縮されていたのは、その後のエピローグだった。なかなか強烈だった。この後味の悪さ、感情が乱される読後感が、良いのだな。

読んでいるとき、ブリトン的な風景が見えそうな山に登ったので、この本を持って行った。結構、イメージどおりの写真が撮れたと思う。

危険に満ちた道を行く、旅人の気分で。

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